腱トレーニングと腱の育て方ガイド(β版)
「もっと高く跳びたい」「長くプレーを続けたい」というスポーツマン向けに、
腱とは何か・どう鍛えて育てていくかを、研究報告をベースに整理したページです。
このページを書いた理由
私はもともと「もっと高く跳びたい」というシンプルな願望から、筋トレやジャンプトレーニングを続けてきました。 その中で、次のようなギャップを強く感じてきました。
- 筋肉を鍛えることはよく語られるのに
- 「腱」がどんな役割をしていて
- それをどう鍛えたらいいのか
については、意外とまとまった情報が少ないと感じてきました。
このページでは、これまでに報告されている研究を土台にしつつ、専門用語や難しいグラフではなく、 「高く・強く・長く跳ぶために、腱をどう育てていくか」 を、できるだけ分かりやすい言葉で整理していきます。
ページ内では内容をかみ砕いて紹介し、詳しく原著論文を読みたい方のために、最後に参考文献をまとめています。
※今後は、レジスタンストレーニングやプライオメトリクストレーニングなど、聞き慣れない言葉が出てくる箇所に、 イラストや動画リンクを追加していく予定です。
1. 腱とは何なのか
ざっくり言うと、腱は「筋肉と骨をつなぐ、“力を伝えるロープ兼バネ”」です。
筋肉が縮む → 腱を引っ張る → 腱が骨を動かす → ジャンプやダッシュ、方向転換が起きる
という流れになっています。
腱には大きく分けて2つの役割があります。
-
力を骨に伝えるロープとしての役割
強い力を受け止めて、ちぎれずに骨へ伝える。 -
バネとしての役割
着地や切り返しの瞬間に一度「伸びて」、そのあと「縮む」ときに弾性エネルギーとして力を返す。
ジャンプやスプリントのような動きでは、この「バネとしての役割」がかなり重要になります。
2. 腱は鍛えられるのか
結論から言うと、腱もトレーニングによって変化します。ただし、筋肉とは性質もスピードもかなり違います。
研究をざっくりまとめると、腱を「鍛える」うえで大事なのはこの3つです。
2-1. ある程度以上の強さが必要
腱のスティッフネス(変形しにくさ)を変えようと思ったら、 最大筋力の70%以上くらいの強度まで負荷を上げてトレーニングする必要がある、という報告が多いです。
それ以下の「軽い負荷+高回数」だけでは、腱そのものの性質はほとんど変わらなかったという結果もあります。
2-2. 一瞬ではなく「ある程度の時間」張る
同じ強度でも、
- 1秒だけギュッと力を入れてすぐ抜く刺激より
- 10〜20秒程度、しっかりと力を入れ続ける刺激
の方が、腱スティッフネスの向上につながった報告があります。
腱にとっては、「どれだけ長く張力がかかった状態が続いたか」が重要な要素の一つと考えられます。
2-3. 数週間ではなく「数か月」単位で変わる
筋肉は数週間〜1〜2か月で変化を感じやすいですが、腱はもっとゆっくりです。
例えば、等尺性トレーニングを3か月継続し、1か月ごとに腱の性質を測定した研究では、 3か月目になってようやく腱スティッフネスの増加が確認されたという結果もあります。
「とりあえず1か月やってみて変わらなかったから、このメニューは意味がない」と判断するのは、 腱に関してはかなり早すぎる、という前提を持っておくと少し気が楽になります。
3. レジスタンスとプライオメトリクスの割合の考え方
腱を鍛えるときに、よく登場するのがこの2つです。
-
レジスタンストレーニング
スクワットやレッグプレスなど、比較的「長い時間」力をかける高強度のトレーニング(等尺性・ゆっくりした動きも含む)。 -
プライオメトリクストレーニング
ジャンプ、ホップ、バウンディングなど、短時間で強い力を出す伸張反射系のトレーニング。
研究から見えている傾向を、かなりざっくり言い直すと:
- レジスタンス:腱の「土台(スティッフネス・強度)」担当
- プライオ:その腱を「バネとしてどう使うか」担当
という役割分担になっています。
さらに、プライオメトリクストレーニングでは
- 弾道的な動きの中での腱の伸び方
- 高速で伸ばされたときの筋の反応の仕方
が変化していた、という報告もあります。これはつまり、
「静止状態での硬さ」だけでなく「高速の動きの中でのふるまい」もトレーニングで変えられる、ということを示しています。
割合の考え方(ざっくりしたイメージ)
あくまで考え方レベルですが、私自身は次のように考えています。
- まずはレジスタンス多め
高強度・長めの収縮で腱の土台を作る時期。 - その上にプライオを足していく
バネの使い方・タイミングを磨いていく時期。
シーズン前やオフシーズンの一部ではレジスタンスの比重を大きくし、 シーズンに近づくにつれてプライオの比重を増やす、といった組み方が現実的だと考えています。
※ここは、今後もう少し具体的な頻度・ボリュームについて自分の実践とあわせてアップデートしていきたい部分です。
4. 実際にどのような運動をすればいいのか
ここでは、あくまで「考え方」と「方向性」だけを書きます。 具体的なメニューは競技・年齢・今の状態によって大きく変わるので、「この通りにやればOK」というものではありません。
4-1. レジスタンス側のイメージ
- 目安として最大筋力の70%前後の強度を目指す
- アイソメトリック(止めた姿勢の保持)や、かなりゆっくりしたエキセントリック動作を使う
- 1回あたり10〜30秒程度、しっかり張力をキープする
- 回数よりも、「1回あたりの張り具合」と「張っている時間」を大事にする
例:
- スクワット姿勢で特定の角度をキープする
- カーフレイズで一番下げた位置・一番上げた位置を保持する
※ここに、将来的には写真・動画のリンクを追加予定です。
4-2. プライオ側のイメージ
- 最初は低い高さ・少ない回数から始める
-
「着地の音」と「接地時間」に注意して、
・ドスンと落とさない
・べちゃっと沈み込まない - 慣れてきたら、高さ・連続回数・方向転換などの要素を少しずつ足していく
例:
- その場のリズムジャンプ
- 台を使わない軽いホップ
- 前後・左右への小さなバウンディング
※ここも、今後イメージしやすい動画を追加していく予定です。
4-3. 全体の組み立て
- 週の中で「レジスタンス中心の日」「プライオを少し入れる日」「ほとんど入れない日」を分ける
- 前週からの練習量を、いきなり2倍にしない(ざっくり10〜20%以内の増加にとどめるイメージ)
- 「高強度のウェイト」「高強度のプライオ」「試合形式の全力プレー」を全部同じ日に詰め込まない
腱や筋肉への負担を考えると、「全部たくさんやる」より「何を優先する日かを決める」ことの方が重要だと感じています。
5. 注意点(必ず読んでください)
次のような状態の場合は、トレーニング内容を工夫する前に、 まずは整形外科やスポーツドクター、理学療法士などの専門家への相談を優先した方が安全です。
- 歩くだけ・階段を降りるだけでも強い痛みがある
- 明らかな腫れ・熱感・赤みがある
- 「バチッと切れた」ような感覚のあとに力が入らない
- 数週間〜数か月にわたって、痛みがむしろ悪化している
また、
- ウォームアップ後に軽い違和感がある程度
- 練習後〜翌日にかけて、痛みが強くなっていかない
といった範囲内でも、自己判断で負荷を上げすぎないことが大切です。
このページの内容はあくまで「腱のトレーニングを考えるための地図」であり、 個々の症状に対する診断や治療を保証するものではない、という前提で読んでいただければと思います。
6. 参考文献
本文は、以下の論文などをもとに、スポーツをしている人向けにかみ砕いて整理しています。 原著を読みたい方は、それぞれのタイトルで検索してみてください。
-
Kubo K, Kanehisa H, Fukunaga T.
Effects of different duration isometric contractions on tendon elasticity in human quadriceps muscles.
J Physiol. 2001;536:649–655. -
Bohm S, Mersmann F, Arampatzis A.
Human tendon adaptation in response to mechanical loading: a systematic review and meta-analysis of exercise intervention studies on healthy adults.
Sports Med Open. 2015;1:7. -
Kubo K, Ikebukuro T, Yata H, Tsunoda N, Kanehisa H.
Time course of changes in muscle and tendon properties during strength training and detraining.
J Strength Cond Res. 2010;24:322–331. -
Kubo K, Morimoto M, Komuro T, Yata H, Tsunoda N, Kanehisa H, et al.
Effects of plyometric and weight training on muscle-tendon complex and jump performance.
Med Sci Sports Exerc. 2007;39:1801–1810. -
Kubo K, Ishigaki T, Ikebukuro T.
Effects of plyometric and isometric training on muscle and tendon stiffness in vivo.
Physiol Rep. 2017;5.